~技術と心をデジタルでつなぐ~
Glicoグループには、日々の仕事の中で自分らしさを発揮しながら、新しい挑戦や工夫を重ねている仲
間がたくさんいます。そんな一人ひとりの想いや行動を紹介し、互いの刺激や学びにつなげる連載「グ
リコパレット」。「パレット」という名前には、グリコという企業が多様な個性の集合体であることを表
現したいという想いが込められています。社員一人ひとりを絵の具の“色”に例え、その色が重なり合う
ことで、組織全体が豊かに彩られていく―そんな姿をイメージしています。第2回は、岐阜の粉ミルク
新工場の、スマートファクトリー化に取り組んだ立役者を紹介。新しい商品や製法を工場へ導入する際
の新規導入業務や、製造の効率化、品質向上など、工場における全てをコーディネートする、江崎グリ
コ 技術開発部の、研究開発グループSCM-DXチーム 金 香花さんにお聞きします。
大学生の時にPockyと出会い、「おいしさと健康」という企業理念に惹かれて江崎グリコに入社した、
中国出身の金 香花さん。粉ミルク「アイクレオ」を生産する岐阜工場でスマートファクトリーの実現に取
り組み、データ活用による生産性向上と働く人のモチベーション向上を目指している。
挑戦を通じて見えてきた、技術と心をつなぐデジタルとは。
「おいしさと健康」の実現に夢を感じて
金さんと江崎グリコの出会いは、一本のPockyから始まった。中国の地方出身でPockyを知らなかった金さんは、大学時代に友人に分けてもらい、初めてPockyを食べた。「『こんなお菓子があるなんて』と感動しましたね。まさに『Share happiness!』な体験でした」。
その後、中国で就職活動をしている際に、江崎グリコを知った金さんは、「おいしさと健康」という言葉に大きな衝撃を受けた。「『おいしいものは健康ではない』というイメージがあり、『おいしさ』と
『健康』が一緒になる理念が新鮮でした。また、家族が病気で好きな食べ物が食べられなくなった経験
から、『おいしさ』と『健康』を結びつける江崎グリコに、興味をもったんです」。
設備設計の技術が、工場作業のストレスを軽減
大学では電子情報系を専攻し、半導体や集積回路(IC)の研究をしていた金さん。しかし、就職活動で
は、パソコン上で行う作業よりも、工場の大きな機械を、自分の思い通りに稼働させるような仕事に魅力
を感じた。江崎グリコでは、技術職として幅広い業務に挑戦できる機会があることも、入社の決め手とな
った。
入社後は、日本に移り住み、Pockyを作る生産設備の技術研究や国内外工場への導入に関わった。学
生時代に「食べる側」として体験した小さな幸せを、世界中のお客様に届けることが喜びとなった。さ
らに、工場で働く従業員を「顧客」と捉え、幸せを届ける経験もした。Pockyラインの設備設計開発を
担当した時に、あるパートタイマーの方が、「金さんの仕事によって作業が自動化されて、作業のスト
レスがなくなって、とてもうれしいです」と直接感謝の声を伝えてくれたのだ。Pocky生地の重量が一
定かどうか、焼きあがって結果が分かるまでの5~10分間、いつもハラハラしていたというのだ。「こ
れ以来、工場の皆さんがストレスのない状態で働ける環境を作りたいと思うようになりました」と金さ
んは話す。
データ化が、スマートファクトリーの第一歩
2017年頃から、江崎グリコではスマートファクトリー化の取り組みが本格化していく。金さんは2023
年に、岐阜工場に粉ミルクのスマートファクトリーを作る、プロジェクトにアサインされた。
「新しいチャレンジができる」とモチベーション高く着手した金さんだったが、課題は山積みだった。
岐阜粉ミルク工場の自動化を進め、少人数のオペレーターで生産および工場運営をするには、少ない
人数でも異常に即時に気づき、迅速に意思決定を行い、再発防止に向けた原因究明・改善を行う必要
があった。
金さんが最初に取り組んだのは生産性向上。生産時のさまざまな数値をデータ化し、誰にでもわか
るように可視化することで、オペレーターが即座に対応できる環境を実現しようとしたのだ。
最も意識したのは、システムの使いやすさだった。金さんは、本当に現場の業務サイクルに合っていて、
現場の人たちに使ってもらえるシステムにすれば、必ず業務は変わると思っていた。現場の意見を何度
も聞き、他社の先進事例を見学し、海外の展示会や工場見学にも足を運んで情報を集めた。「例えば
スマートフォンなら、ほとんどの人は説明書を読まずに、触りながら使い方を覚えていきますよね。
そんなふうに、使い始めるまでの
ハードルが低いシステムが理想。皆さんの業務プロセスの効率化に役
に立てればうれしい
ですね」と金さんは話す。
現場との協働で生まれた正のスパイラル
システムは完成したものの、2024年4月の稼働開始当初、岐阜工場は生産立ち上げに忙し
く、「データ
を見ている時間がない」という状況が続いた。そこで金さんは、現場と技術開発部が一緒に課題解決に
取り組むことを提案。月1回の相談会を設け、現場の人たちに一
人一つの課題にコミットしてもらい、共
同で解決に当たったのだ。
この取り組みの結果、日報作成業務時間の短縮や、エネルギー使用量の削減など、具体的な成果が
生まれた。実際に働きやすさが向上したことを実感した現場のメンバーからは、「こういうこともできる
んじゃないか」「こういう形でデータを残せば、また改善に使えるのでは」という意見が自発的に出るよう
になり、データ活用への意識が高まっていることを感じている。「こういった声が出て、現場が変わりつつ
あることはとてもうれしいし、やりがいを感じます。来年度以降は、岐阜工場が自走する形で成果を出し、
継続的に進化し続けられる形を目指したいです」。
「すこやかな毎日、ゆたかな人生」への貢献
現在の取り組みで、当初掲げた「データ活用による大きな経済効果」の実現はすでに視野に入ってい
る。しかし、金さんの視線はさらに先を見据えている。
Glicoの存在意義(パーパス)「すこやかな毎日、ゆたかな人生」の実現を見据え、高品質で安全な製品
を安定的に生産する基盤を築くことで、お客様の健康に貢献する。同時に、
働く人たちがストレスなく、
やりがいを持って働ける環境を整えることで、製造に関わる全ての人の人生をゆたかにすることを目
指しているのだ。
「お菓子は、お客様が楽しく食べてくれるもの。生産する工場の人にも、ワクワクして働いてもらいた
いんです。そういった方が増えればいいものも作れるし、お客様にもいい商品をお届けできる」 。
金さんは今日もデータと向き合い、未来の工場づくりに挑み続けている。
金さんの推しグリコ
私の推しグリコは、何と言ってもPockyです。入社後はPockyラインの設備設計開発や制御を
担当し、生地の重量を均一にコントロールする技術開発に携わりました。
この仕組みは私の名前「金香花」から香花を取って「香花適麺(こうかてきめん)」と名付けられ、
今も工場で活躍しています。
岐阜工場 磯尾 和明さんからのコメント
岐阜新工場では、様々な生産機器の運転情報を、IoT技術を駆使して工場内のシステムで一元的に収
集・管理するよう設計されています。しかし、現場で働く従業員はデジタルに精通しているわけでもなく、むしろ初めて触れる従業員がほとんどでした。
金さんをはじめとしたチームがデジタルツールのトレーニングの場を設けてくれましたが、生産に追わ
れていたことと活用のイメージが掴めないことにより、当初は積極的に使う人が少なく、申し訳なく思っ
ていました。
そんな状況でも金さんたちはねばり強く、定期的な相談会を通じて私たちのニーズを引き
出し、解決手段を提案し続けてくれました。活用のイメージが形になってくると、多くの社員が色々な場面
で使いだし、エネルギーコストや原料ロス削減などで大きな成果が上がるようになりました。
デジタルツールに対するハードルを下げてくれたことは、まさにユーザーを顧客と捉えた神対応です。
今後は品質関連データも関連付け、品質向上にも役立てていくことで恩返しをしたいと思います。
